海底砂漠
磯焼け・・・藻場消えて魚もエビもいない
1999年読売新聞 ”検証東海99 ” より
 熊野灘に面した三重県紀勢町。海藻研究者の前川行幸・三重大生物資源学部教授とともに黒潮が洗う海に潜った。海底の岩場に海藻の姿がない。そこに集まるはずの魚やエビもいなかった。砂漠のように枯れ果てた白い海。「磯焼け」が静かに広がっていた。
(写真・文 加藤 学)
 コンブやアラメ,カジメなどの海藻が豊富な藻礁は,魚たちの産卵の場,生育の場だ。同時に,海藻類はサザエやアワビなど貝類のエサにもなる。まさに藻礁は「海中林」だ。
 その藻場が消えていく「磯焼け」が全国的に広がっている。昔から海流の変化によって水温が上昇すると,同様の現象は起こっていたが,いつか元に戻った。今,日本の海でその復元力が無くなっているのだ。
 「原因はまだ確定していない。護岸工事,水質の悪化,富栄養化などが考えられる」と前川さん。

 海の荒廃への危機感から,藻揚を人の手で復元する動きも盛んだ。紀勢町の錦湾では,九六年から,国際環境技術移転研究センターと中部電力の共同研究で,コンブの一種,カジメの種苗を付着させたコンクリート礁を沈め,人工藻揚の造成に取り組んでいる。

 以前,同県尾駕市の尾鷲湾で試みたアラメによる藻場造成では,エルニーニョ現象による水温上昇や,海藻を食べるムラサキイガイの異常発生で,壊滅的な被害を受けた。一度失った自然を取り戻すのは,容易ではない。

 事業をバックアップするため,前川さんは研究室の学生らとともに,太陽光の海底への到達度や,海藻の光合成の力など,海藻類の生育環境の研究を進めてきた。「人工藻場を成功させるには,五年,十年といった長期的な観察,調査が必要だ」という。

 その中で人工藻揚のカジメは順調に育ちつつある。広大な海を前にしては,小さな小さな成果とはいえ。