不稔性アオサのリン酸態リン、硝酸態窒素、アンモニア態窒素の吸収能力 |
|||
小野 晃生
|
|||
(論文要旨)
右田(1985)によって報告された不稔性アオサは室内培養条件下でほとんど成熟することなく栄養生長し、高い生長率を示すことが知られている。このような特徴を利用して、本種は、アワビ稚貝の餌料として活用されているほか、マダイ・ブリ・ヒラメの幼稚魚の飼育と併用培養することで、飼育環境の保全に効果があるとされている。また、浅海域における養殖場の環境保全に活用する目的から、大量培養のための技術開発も行われている。しかし、本種を用いたこのような多くの応用学的研究に比べ、生理生態学的研究は少ないのが現状である。本研究では、環境保全に活用できる可能性を明らかにするため、生態学的観点から見た本種の栄養塩吸収能力を求めることを目的として、PO4-P、NO3-N、NH4-Nの吸収能力を明らかにしようと試みた。 まず、PO4-P、NO3-N、NH4-Nの最適濃度を求めるための培養実験を行った。最適濃度は、藻体の生長率、クロロフィルa含量を基準に判断した。その後、各々の最適濃度の培養液を用い、各栄養塩の吸収能力を求めるための実験を行った。培養期間は24時間とし、3時間間隔で、各栄養塩の吸収量を測定し、1日の吸収量を求めた。 最適濃度はPO4-Pで1.0mg at/l、NO3-Nで10-30mg at/l、NH4-Nで10mg at/lの値を得た。この濃度は、PO4-Pにおいては、PES濃度の約1/25、NO3-Nでは約1/65-1/22に相当する。これらの値は、富栄養化した海域中のPO4-P及びNO3-Nの濃度に相当する。アンモニア態窒素については、かなり富栄養化した内湾の濃度に相当する。それぞれの栄養塩の最適濃度における24時間培養での生長倍率は、明時間の方が暗時間に比べて高くなる傾向があったが、24時間で約2.0〜2.5倍と高い生長倍率を示した。これは、光強度、温度などの生態学的条件を考慮して、培養を行った前川ら(1996)の報告とも一致した。数回に渡り行った各々の栄養塩吸収能力実験で得られた3時間間隔での値はいずれの組合せでも、有意差が見られなかった。これより、各々の栄養塩における全データの平均値と95%信頼限界を取り、藻体の栄養塩吸収能力を求めた。藻体の栄養塩吸収量は、1時間当たりリン酸態リン0.0040±0.0007mg at cm-2h-1、硝酸態窒素0.090±0.017mg at cm-2h-1、アンモニア態窒素0.067±0.020mg at cm-2h-1であった。1日当たりでは、リン酸態リン0.096±0.017mg at cm-2d-1、硝酸態窒素2.16±0.41mg at cm-2d-1、アンモニア態窒素1.61±0.48mg at cm-2d-1であった。また、生長に阻害がみられない最高濃度は、PO4-Pで10mg at/l、NO3-Nで100mg at/l、NH4-Nで300mg at/lとなった。このPO4-P濃度は、PES濃度の約2/5、NO3-N濃度は約2/13に相当する。これらの結果は、今後、異なる培養条件下での栄養塩吸収能力の特定や、屋外における大量培養を行う際の具体的なデータを提供することができる。 |
|||