4種アマノリ属糸状体の光合成−温度、生長−温度特性
大橋 伸子
(論文要旨)

アマノリ属は日本沿岸だけでも20種以上生育し、アサクサノリやスサビノリ等が日本各地で盛んに養殖され、我々日本人にとって重要な水産資源となる種を含む。アマノリ属は種により北方から南方まで広い範囲にわたって分布している。これらの生態学的な水平分布を規制する最も重要な要因は温度と考えられている。本研究ではアマノリ属の温度に対する光合成特性と生長特性に着目し、異なる生育分布を示す4 種のアマノリ属を実験材料として用いた。揚子江以南に生育する南方産のPorphyra haitanensis と、北海道西岸に生育する北方産のウタスツノリP. kinositae、本邦中南部沿岸に生育するオニアマノリP. dentata とカイガラアマノリP. tenuipedalis について、糸状体の温度に対する光合成特性及び生長特性を調べた。得られた光合成−最適水温、生長−最適水温とそれぞれのアマノリ属が生育する場所の水温を比較し、水平分布との関係を明らかにしようと試みた。

 光合成測定は1日の予備培養後、ただちに同一の試料を使用し低温側から高温側に、光合成活性を測定する短時間測定と、予備培養後、本培養として各試料を各温度で3日間培養した後、培養時の温度で光合成測定を行う培養後測定を行った。糸状体の生長は、各温度で6日間培養し、 2日間隔で、顕微鏡写真から画像処理をかけて面積を計算した。培養及び光合成の測定は5-37.5℃の範囲で行った。

 糸状体の光合成−温度特性はいずれの種でも低温域で値が低く、温度の上昇に伴い高くなり、種により異なるが15-30℃ で最大値を示した。光合成最適水温はP. haitanensisで25-30℃、オニアマノリで20-27.5℃、ウタスツノリで15-25℃、カイガラアマノリで15-20℃であった。生長−温度特性は光合成−温度特性よりも最適温度が明瞭に表れ、種により異なるが20-27.5℃で最大値を示した。27.5℃以上の高温域ではP. haitanensis以外の種ではほとんど生長がみられなかった。生長最適水温は、P. haitanensisで27.5℃、オニアマノリで25℃、ウタスツノリで22.5℃、カイガラアマノリで20℃であった。本研究で得られた光合成及び生長の最適水温は、それぞれの生育場所の平均水温とほぼ一致した。またそれぞれの種の高温耐性については、光合成はP. haitanensisが35℃、オニアマノリが30℃、ウタスツノリが30℃、カイガラアマノリが30℃で活性が失われた。生長の限界最高温度はP. haitanensisで32.5℃、オニアマノリで30℃、ウタスツノリで27.5℃、カイガラアマノリで30℃であった。これらの値は生育場所の夏の高水温より高く、生育可能な温度範囲内であった。

 以上、4種アマノリ属糸状体の光合成、生長−温度特性を考慮すると、水温はこれら4種の水平分布を限定する重要な要因の一つであると考えられた。